いよいよ今週末からポーランドに入り、新作のリハーサルが始まります。どんな演劇なの?とよく尋ねられて、なんともひとことで言い表せないもどかしさを感じていますが・・。

これから仕事をする劇団、ソング・オブ・ザ・ゴートは、グロトフスキー(Jerzy Grotowski, 1933年-1999年,ポーランド)という演出家の考え方を直接受け継いで活動しています。「持たざる演劇」のタイトルで邦訳も出ているグロトフスキーの著書によると、彼の目指した演劇は豪華なエンターテイメントではなく、舞台セットや衣装など無駄なものをすべてそぎ落としたところにある俳優の肉体と観客の間にあるもの、俳優も観客も日常生活でかぶり続けている社会マスクを脱ぎ、自分は本当はどんな存在なのだろうと探求する場、なのだそうです。今の映像演技の主流になっているスタニスラフスキーシステム(のちにメソッドアクティングとしてアメリカで流行)をはじめたスタニスラフスキー(Constantin Stanislavsky,1863年-1938年,ロシア)に異を唱えたとも言えます。社会マスクをかぶったまま、本音と建前がずれているコミュニケーションをそのまま作品にするのが自然主義的演技のスタニスラフスキー、一方、そんな建前ここでは捨てておしまい!となかば乱暴に痛いものや汚いものの蓋を開けてしまうのがグロトフスキーと言えるでしょうか。グロトフスキーの若いころのインタビュー映像を観ると、太り気味でダークスーツにサングラス、常にタバコを吸い続けるという不健康さが気になりました。傷つかないようにかたくなに自分の殻に閉じこもっているという印象でした。俳優に徹底的な肉体訓練を要求し、純粋になれ、holy actorになれ、という彼の願いは、自分自身の厚いバリアをどうにかしたいという気持ちの表れだったように思います。同時にそれは、ロシアとドイツに侵略されて国を失った経験のあるポーランドの、ポーランド人としてのアイデンティティを保ちたいという強い願いとも重なると考えるのはいきすぎでしょうか。

私が出演する次回作は、シェイクスピアの「ハムレット」と聖書の1節の「真珠の歌」とアメリカの現代詩人アレン・ギンズバーグの「吠える」を元にして作っていくそうです。台本があるわけではなく、俳優/ダンサー/音楽家の即興や話し合いによって作るディバイジングという方法をとります。はてさてどんな作品になるのやら、とても楽しみです。本番は6月、7月にポーランドのヴロツワフで予定しているそうです。9月にまた日本に帰ってくるまで、気を付けて行ってきまーす。

ちなみに劇団のウェブサイトはこちらです。
http://piesnkozla.pl/